地震・津波・台風・火災・停電・断水…あらゆる災害に備え、犬・猫・爬虫類・インコ・熱帯魚などペットの命を守る行動とは? 獣医師による実践的アドバイスと事前準備・緊急時の代替手段を詳細解説。停電・断水・ガス停止時でも生き延びるための知識を網羅。
こんにちは。アロハオハナ動物病院かもがわ公園小動物クリニック院長です。
大切な家族(Ohana)であるペットを守るために、私たち飼い主ができることは何でしょうか?
災害が起きたとき、まず最優先されるのは「人の命」です。
しかし、だからといってペットの命を諦める必要はありません。

私たちにできるのは、「災害が起きる前から準備しておくこと」。
特に、地震・津波・台風・火災などによって、電気・水道・ガスといったライフラインが止まった状況を想定し、その中でもペットの命をつなぐ方法を知っておくことが何よりも重要です。
停電による保温器具の停止、水道の断水による飲み水の不足、ガスが使えないことでお湯も使えない――
そんな状況でも、工夫と準備があれば乗り越えられる方法があります。
ここでは、災害時に本当に役立つ「ライフライン停止時の対策」も含めて、動物種ごとの特性に配慮しながら、具体的かつ実践的にまとめました。
いざという時に後悔しないように、今できる備えを一緒に考えていきましょう。
🔌 1. 停電に対する備えと対応策
✅ 日頃の準備
対象 | 備え |
---|---|
共通 | – モバイルバッテリー(20000mAh以上)- ポータブル電源(300〜1000Whクラス)- ソーラーパネル充電セット(60W〜)- LEDランタンやヘッドライト |
保温動物 | – USB加熱パッド/USBカイロ(モバイルバッテリーで作動)- 発熱剤式ヒーター(登山用品に準ずる)- 小型反射式ヒーター(ガス不要タイプ) |
水槽生体 | – バッテリー駆動のエアポンプ(エアストーン付)- USB式サーキュレーター・ヒーター(最低限の循環と保温) |
✅ 停電したときの即時対応(冬季・夏季)
動物種 | 状況 | 即時対応(電気が止まった場合の実践策) |
---|---|---|
犬・猫 | 冬季(低体温リスク) | – 飼い主の膝の上・胸元など体温を活用した密着保温– 毛布・ダウンジャケット・アルミシートなどで保温力の高い素材を多重使用- ケージやキャリーの外側を段ボールや毛布で囲って断熱– 懐中電灯・LEDランタンで排泄や食餌の場所を明示し事故防止 |
夏季(熱中症リスク) | – 暗く風通しのよい部屋へ避難(窓を開けられるなら開放)- ケージやキャリーは日陰に移動し、直射日光を回避- 保冷剤をタオルに包んで近くに置く(直接接触は避ける)- 舐めて水分補給できるゼリータイプのおやつも有効 | |
保温動物(鳥・モモンガ・爬虫類等) | 冬季(低体温・命の危機) | – 発泡スチロール箱+毛布+タオルで即席の保温ボックス作成- カイロ+ペットボトル湯たんぽを交互に使用(60℃未満で低温火傷防止)- USB電源があればUSBカイロ・加熱パッドを優先使用- 爬虫類は特に32~35℃を下回ると代謝停止→体表温でモニタリング |
夏季(過加温・脱水リスク) | – 通風のよい場所に移し、ケージの蓋を開放しない範囲で風を通す– 気温が高すぎる場合は保冷剤をケージの外側に設置(内部温度を調整)- 果物ゼリーや水分を含んだ餌で脱水予防- 直射日光でケージが温室化しないよう遮光カーテン等で遮る | |
水槽生体(魚・水棲カメ等) | 冬季(水温低下・活動停止) | – お湯を入れたペットボトルを水槽の外側に当てる(毎時交換)- 保温効果を高めるため、水槽全体を毛布やアルミ保温シートで包む– 必要に応じて少量の換水で水温調整(急変に注意) |
夏季(酸欠・アンモニア上昇) | – 酸素不足に備え、手動で水面を撹拌またはUSBエアポンプを数時間交代使用– 濾過停止による汚染回避のため、給餌を完全停止– 日陰に移動し、冷却ファンの代わりに扇風機(手動可)や凍らせたペットボトルを水槽周囲に設置- 1日1回、水槽の1/3を換水(事前に保存しておいた清潔水使用) |
🧊 冬季と夏季で共通して重要な注意点
- 保温・冷却いずれも“やりすぎ”に注意(低温火傷・熱中症の両方に注意)
- 避難やケージ移動は極力ゆっくりと、動物のストレスを最小限に
- 室温管理が難しい場合でも、「体温」「断熱」「風通し」をキーワードに工夫

💧 2. 断水に対する備えと対応策
✅ 日頃の準備
内容 | 備え |
---|---|
飲用水 | – ペット用:最低でも1日500mL/頭×7日分(例:小型犬1頭で3.5L)- スポーツドリンクや経口補水液は補助として(腎疾患の子は注意) |
生活水 | – 飲用不可の水(お風呂の残り湯など)も洗浄・足ふきに使用- ウェットティッシュ・無水シャンプーなども備蓄 |
浄水器 | – 携帯式濾過ストローやタンク式浄水器(LifeStraw、Sawyerminiなど) |
✅ 断水中の具体的対応
動物種 | 対応策 |
---|---|
犬・猫 | – 飲水は原則人間と同じ基準で確保(沸騰→冷却が理想)- 足ふき・口周り清拭は、使用後すぐタオルで拭き取り蒸れ防止- 排泄は使い捨てペットシーツで代用(再利用時は濡れタオル+乾拭き) |
保温動物 | – 鳥や小動物は水をこまめに交換できない場合、ボトル式給水器の清掃を入念に- フクロモモンガやデグーは水分豊富なおやつ(果物ゼリー・野菜)で部分代用 |
水槽生体 | – 飲用不可の水でも、水槽内水質維持には使える(バケツ保存水など)- バクテリア剤(市販の硝化菌剤)で生物濾過補助- フィルター停止時は餌を極限まで減らし、汚染の拡大を防ぐ |

🔥 3. ガス停止に対する備えと対応策
ガスが止まると「加温・加湯・煮沸消毒」が難しくなります。
✅ 日頃の備え
内容 | 備え |
---|---|
加熱 | – カセットガスコンロ(寒冷地用ガス缶もストック)- 非常用固形燃料(エスビット等) |
保温 | – 給湯用ポットや加圧ボトル(魔法瓶式)- お湯の使い回しスケジュール表(1Lで足拭き10頭分など) |
✅ ガス停止時の行動
動物種 | 対応策 |
---|---|
全般 | – 加熱ができないため、湯たんぽ→カイロ→人の体温で段階的に保温代用- ペットボトル湯たんぽは「火元がない環境」で、あらかじめ温水を準備し魔法瓶で保温しておく |

🧭 共通対応:人命優先と両立する動物管理の心得
- 同行避難が前提:飼い主が無事でなければペットも守れない。自らの避難準備(靴・ヘルメット・防寒具)も必ず万全に。
- 他人に委ねる訓練:いざという時、他の人に預けてもパニックを起こさないよう「第三者との関わり」も日常から慣らす。
- 2段階避難想定:避難所に連れていけない場合、自宅内の一時保護(室内の一番安全な部屋)→近隣施設や車中泊への2段階対応も視野に入れる。
- ライフライン停止に備えた72時間行動計画:
例)1日目:保温対策+静かな環境で休息 → 2日目:給水制限+排泄環境工夫 → 3日目:再加温・換気準備
📦 緊急備蓄リスト(全種共通・1週間分目安)
種類 | 内容 |
---|---|
水 | ペット1頭あたり500mL×7日(猫やウサギも同様) |
食料 | レトルト・乾燥・缶詰。療法食は最低2週間分 |
モバイル電源 | 最低2万mAh×2台。可能ならポータブル電源(ソーラー充電付き) |
保温 | 使い捨てカイロ50枚、USB式加熱パッド、アルミシート |
消毒 | 次亜塩素酸水、ウェットティッシュ、アルコールスプレー |
照明 | LEDランタン、電池、手動式ライト |
医薬品 | 持病薬+応急手当用品(包帯、体温計、点眼薬など) |

🐕 犬
① 準備フェーズ(備蓄と訓練)
- 緊急キット(最低7〜10日分準備):食料、水(1日500mL×体重比)、常用薬、写真(飼い主とのツーショット)、予防接種・医療記録の原本・コピー、マイクロチップ番号、犬鑑札、レインコート、使い慣れた毛布。
- キャリー・ケージ訓練:日常的に車内や室内でキャリーに慣らし、非常時に自ら入る習慣をつけておく。
- チーム避難計画:役割分担(誰が食料バッグ、誰が犬を担当)、ペット可の避難所・宿泊先登録、緊急時連絡先と集合地点の共有。
- 家具転倒防止策:地震対策として、家具や大きなものを壁に固定し、犬が下敷きにならないようにする[(veterinary.rossu.edu)]。
- マイクロチップ・タグ管理:迷子対策として、連絡先情報を常に最新に更新。IDタグは防水かつ見やすい場所へ装着。
② 災害対応フェーズ
災害 | 対応手順 |
---|---|
津波/洪水/台風 | 被災予想先での高所避難を最優先。「決して木や電柱にペットを繋がない」。過去の洪水事例では、高所避難が最も効果的とされる[(knowledge.aidr.org.au)]。河川や沿岸では警報前に、リード・キャリーの準備を整える。 |
地震 | 揺れ始めたら「身を守る行動(DROP・COVER・HOLD ON)」をとる。揺れが収まった直後に速やかにキャリーに入れる。飼い主が痛めた足などで抱えるとケガのリスクがあるため注意。また、隠れる習性があるので、普段からお気に入りの場所を把握し、家具が転がらないようガードを設置。 |
火災/山火事 | 煙で犬は呼吸困難になるため、窓に「ペット在中」ステッカーを貼る。火災警報で即避難、絶対に再入室しない。被災家屋の外付け電源タップで火災予防を確認。 |
熱波/低温 | 体温管理が重要。暑さでは地表温度を素手でテスト。逆に低温では犬用ジャケット・毛布・電池式ヒーターを使用。救急処置法は冷却パックで脇の下や頭部を冷やす。 |
放射能災害 | 避難先では、獣医師指示のもと被ばく除染を実施(汚染物質を水とタオルで除去)。獣医師会やVMATへ委託。資源不足では人と同等の扱い難あり。 |
③ 復旧フェーズ
- ストレス・外傷の早期検査。離脱初期 —隠れ・非日常挙動が継続する場合は受診。
- キャリー・クレート内に飼い主にニオイのするブランケットや玩具を設置。
- 情報共有:近隣コミュニティやSNSで迷子防止・再会支援。自治体へ飼育再開申し込みを行なう。

🐈 猫
① 準備フェーズ
- 猫専用キャリー訓練:素早く入れるよう複数個所に常備し、タオルやフェロモンアイテムで安心感向上。
- 多重ID管理:マイクロチップ、首輪+迷子札、写真(印刷物・電子画像)をバッグに保存。
- 苦手場面訓練:ケージ内での留守番や狭所に慣れさせ、不測時ストレス低減。
② 災害対応フェーズ
災害 | 対応手順 |
---|---|
津波・洪水・台風 | ・猫をキャリーにすぐ入れられるようにしておく(高所に常備) ・水に触れさせない(毛づくろいで汚染物を口にする恐れ) ・暴風雨時にパニックを起こしやすいため、キャリー内を暗く静かに保つ(タオルで覆う) ・避難先ではトイレの確保が重要 |
地震 | ・揺れが収まったら即座にキャリーへ入れる(家具転倒後の隙間に逃げ込まないよう日頃から環境を調整) ・大きな音に非常に敏感なため、移動時は耳栓代わりにタオルでキャリーを包むとストレス軽減 ・脱走防止でキャリーの扉は2重ロック推奨 |
火災 | ・煙の感受性が高い(肺水腫リスクあり)ため、即時避難を徹底 ・事前に「猫在中」ステッカーを窓に貼ることで救出率が上がる ・呼吸状態に異常が見られた場合は酸素吸入装置を備える動物病院で早期診察を |
熱波/寒波 | ・熱中症リスクあり。移動中は冷却シートや保冷剤(タオル巻き)をキャリー内に設置 ・寒波ではカイロ・ヒーターをタオルで包んでキャリー底に設置し保温 ・キャリーを日陰に置く/空調のある車や施設内へ優先避難 |
放射能災害 | ・被ばく粒子は足裏や被毛に付着しやすいため、避難先ではウェットティッシュや温水での除染を実施 ・可能であれば獣医師会などによる内部被ばく線量測定を受ける ・飲用水はミネラルウォーターを確保し、濾過器つきボトルは便利 |
③ 復旧フェーズ
- 糞尿・食欲・行動日誌をつけ、次回診察で提示。
- キャリー置き餌で日常リズムの回復。
- 応急処置の復習と情報共有(防災マニュアル、SNS、獣医師会)。

🐦 保温動物(鳥・爬虫類・小型哺乳類)
① 準備フェーズ
- 専用キャリー&環境キット:バッテリー式ヒーター又はUSB給電式パッド、暖色LED照明、湿度&温度計。鳥は酸素消費高いため酸素透過布でケージを包む。
- 疾病チェック:鳥ではクラミジアや結核など呼吸系疾患チェック必須。
- 避難先の施設確認:電源・ケージ固定環境・除菌ポリシーがある避難所の事前調査。
- ケージ固定訓練:揺れでも倒れないケージ固定法(底面すべり止め・ロック)。
② 災害対応フェーズ
災害 | 対応手順 |
---|---|
津波・洪水・台風 | ・温度・湿度変化に極端に弱いため、断熱性のあるキャリーまたは発泡箱を使用し移動 ・保温パッドまたはUSB給電式のヒーター内蔵タイプを準備 ・暴風雨時のストレス対策として、キャリー全体を暗くする(防音効果のある布) |
地震 | ・強震時、鳥はパニックで羽を痛めやすいので、揺れが収まった直後に暗所へ避難(静音と遮光を意識) ・爬虫類は停電による環境温度低下に特に注意。すぐに保温用モバイルヒーターを使う ・哺乳類は振動恐怖による食滞やストレス下疾患に注意(胃内異物など) |
火災 | ・煙や一酸化炭素に極度に弱い(鳥は30秒以下で致死量に達する例あり) ・できれば酸素供給キャリーを常備(鳥類用) ・煙の臭いが微量でも残るケージ・タオル類は廃棄すること |
熱波/寒波 | ・爬虫類:光+ヒーターによる恒温環境を崩すと消化停止・免疫低下 ・鳥類:熱波では通気性重視、寒波ではバッテリー式ヒーターの使用(低温時は脚の冷えや羽のふくらみ観察) ・小動物:ケージ底の断熱/保温と、低温ストレスによる拒食に要注意 |
放射能災害 | ・羽毛や鱗に放射性粒子が付着しやすいが、水浴びできない種類(フクロモモンガ等)は拭き取りが必須 ・爬虫類は長期給餌停止に備えて、非常食(ゼリー・冷凍ピンクマウスなど)も準備 ・鳥類は被ばくによる免疫低下が顕著に出るため、定期的な便検査を推奨 |
③ 復旧フェーズ
- とくに爬虫類は代謝低下や拒食の兆候をチェック。
- 習慣回復トレーニング:給餌タイミング・光/温度のセット復元。
- 記録管理:震災後の状態変化(体重・行動・皮膚状態)を詳細に記録。

🐟 水槽飼育動物(水棲カメ、金魚、メダカ、熱帯魚、ビーシュリンプなど)
① 準備フェーズ
- 停電対策キット:バッテリー動作エアポンプ予備×2、保温パッド、サーモスタット(バッテリー内蔵)、断熱ボックス(発泡スチロール容器)。
- 小分け容器:魚を避難先へ持ち出せるように、ポータブル水槽(10L程度)・濾材セット予備。
- 水質試験薬:pH、アンモニア、硝酸塩チェック用で、続く停電の影響を可視化。
② 災害対応フェーズ
災害 | 対応手順 |
---|---|
津波・洪水・台風 | ・可能であれば水槽から発泡スチロール製小型容器に移し、高所または安全地帯へ避難 ・停電で濾過装置・エアポンプが止まるため、バッテリー式の予備機を起動 ・暴風雨による水温変化を防ぐため、断熱カバーや保温材で覆う |
地震 | ・水槽は転倒・水漏れのリスクあり。水位を下げておき、重心を下にする(特に大型水槽) ・飛び跳ね防止のフタと滑り止めマットは必須 ・断水に備え、浄水器または保存水を常備(pH調整可) |
火災 | ・煙が水面を覆うと酸素不足・pH低下が急速に起きるため、即座にエアレーション復旧を図る ・発生源近くに水槽がある場合、生体よりも安全な環境への退避を優先(移動用バケツ+酸素供給装置) ・焼損した濾材・ヒーターはすべて交換 |
熱波/寒波 | ・熱帯魚では水温26〜28℃の維持が重要。気温に応じて冷却ファンや保温器具を活用 ・寒波での停電時には、お湯入りのペットボトルを水槽外側に密着させて応急加温 ・日中と夜間で温度差が10℃以上あると病気が出やすいため、温度モニターを常設 |
放射能災害 | ・水は放射性物質の濃縮媒体となる。汚染の恐れがある場合、水ごと生体を安全な新しい水槽に移し、旧水槽は隔離廃棄 ・エサや水草にも汚染の可能性があるため、密封管理または交換 ・長期避難が想定される場合、水質安定剤(バクテリア剤)や非常食(スピルリナ、乾燥赤虫)を活用 |
③ 復旧フェーズ
- 水質回復—アンモニア・亜硝酸濃度が低くなるまで定期的に部分換水。生物濾過を再構築。
- 魚の挙動観察—エラ呼吸、餌の食べ方、群泳移動パターン。異常なら動物病院へ連絡。

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