「あなたの笑顔が、ペットにとって一番のおくすりです。そして、あなた自身にも」
アロハオハナ動物病院かもがわ公園小動物クリニック院長です。
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今回は、精神科医である荒田智史先生が「シネマセラピー」と題して書かれた記事を参考にして、演技が持つ心理的な機能について掘り下げてみましょう。荒田先生は、人がなぜ演じるのか、その奥深い理由と効果について、いくつかの機能を通して紹介されています。
演技には、主に3つの心理的な機能があるとのことです。
- 感情を解き放つ-カタルシス(浄化)
- 自分を俯瞰する-メタ認知
- 助け合おうとする-仲間意識
それでは、それぞれの機能について詳しく見ていきましょう。

1. 感情を解き放つ-カタルシス(浄化)
演技の1つ目の機能は、感情を解き放つ、カタルシス(浄化)です。これは、演技という「枠組み」の中で、普段は抑圧している感情を自由に表現することで、心のわだかまりを洗い流し、スッキリさせる効果を指します。
例えば、ある登場人物は、普段から疑心暗鬼になり、素直な感情を押し殺して生きていました。しかし、演劇と出会い、役になりきる中で、「自分こそがこの場の王様だ!」と感情を爆発させることで、生き生きとした表情を見せ、気分も良くなった様子が描かれています。社会では感情を爆発させることは受け入れられにくい場合もありますが、演技というルールの中では、逆にそれが好まれる傾向にあります。これは、暴力が社会で受け入れられなくても、格闘技というルールの中では好まれるのと似ています。
このカタルシス効果は、演じる側だけでなく、演技を見る観客も味わうことができます。観客が演じる人物に共感することで、カタルシスを追体験できるからです。
感情については、ある指導者は、「怒りの演技は簡単だが、難しいのは傷つく演技だ」と説明していました。これは、怒りがストレートな単一感情(一次感情)であるのに対し、傷つく感情は悲しみや怒りといった基本感情と、恥や悔しさといった社会的感情が織り交ぜられた複合感情(二次感情)だからとされています。
ちなみに、このような感情に焦点を当てて気づきや受容を促す心理療法は、エモーション・フォーカスト・セラピー(感情焦点化療法)と呼ばれ、劇中では演劇グループのウォーミングアップでたびたび行なわれていました。
私自身も以前ドラマのエキストラとして数々のドラマなどに参加したことがありますが、残念ながら今回ご紹介したような深いカタルシス効果を得ることはできませんでした。役に入り込む度合いや、感情を表現する機会の有無など、様々な要素が関係しているのかもしれません。というよりも、エキストラが目立ってはいけないという大前提がありましたから。

2. 自分を俯瞰する-メタ認知
2つ目の機能は、自分が自分自身を俯瞰する、メタ認知です。これは、演技のプロセスを通して、役になりきる喜びを味わいつつ、同時に日々の自分の気持ちや行動を見つめ直すことです。
ある登場人物は、演劇の魅力について、「おれたちは演技することで、人生に向き合える」「頭の中で出所できる」と語っていました。海賊や剣闘士、王様などの役を演じることで、心の自由を感じ、人間として生きている喜びを実感できるのです。これは、指導者の「プロセスを信じろ」という言葉にも通じており、演劇の更生プログラムは、舞台で良い演技をするという「結果」だけでなく、そこに至る「プロセス」自体が人々を救済する意味を持つと示唆されています。
また、演技中に感情的になりがちな登場人物が、過去の自身の経験を語りながら「おれたちはもう一度人間になるためにここにいる」と涙ながらに語る場面もありました。メタ認知は、感情のセルフコントロールを促し、人間性を回復させる効果があります。人間らしく生きるためには、自分の弱さやありのままの感情を俯瞰して気づき、虚勢を張ったり無関心を装ったりせずに受け入れることが必要だからです。そして、欲望や怒りに身を任せない生き方を選ぶことにもつながります。これは、アルコール依存症への心理療法にも通じる考え方です。
あるウォーミングアップのセッションでは、指導者が「きみたちにとって最もパーフェクトな場所はどこ?」「誰かと一緒かな?」「どんな音が聞こえる?」といった質問を投げかけます。すると、参加者たちはそれぞれが想像する完璧な場所を語り出します。ある参加者は、自分が座っている椅子から見えるハドソン川の向こう岸の山の上に母親がいると想像し、その母親の視点を通して自分を俯瞰している心のあり方が見て取れます。
ちなみに、このように俯瞰を意識して気づきや受容を促す心理療法は、マインドフルネスと呼ばれています。

3. 助け合おうとする-仲間意識
3つ目の機能は、助け合おうとする、仲間意識です。これは、演技の練習など、共通の目的に向かって一緒に何かをすることで生まれる相互作用から、お互いに気にかけるようになる関係性のことです。
最初は孤立し、他者に対して怒りをぶつけることもあった登場人物が、演技の練習を共にし、お互いの弱さや感情を語り合う中で、少しずつ心を開いていく様子が描かれています。やがて彼は、「みんなと一緒にいれば、また自分を信じられるかもしれない」と語るようになります。
さらには、ある登場人物が絶望に打ちひしがれて演劇から逃げ出した際、かつて助けられた経験のある別の登場人物が、「今度はおまえの力になりたいんだ」と手を差し伸べる場面もありました。このように、救う側と救われる側という立場が入れ替わりながら、彼らはより人間らしくなっていくのです。
ここからわかることは、「最初から好きだから助け合う」のではなく、「助け合うから好きになる」という心の動きです。そして、「好きになったからさらに助け合う」という好循環が生まれるのです。これが友情の心理であり、アルコール依存症などの自助グループにも通じる考え方です。
演技は単なる表現活動に留まらず、私たちの感情、自己認識、そして他者との関係性に深く作用する、パワフルな心理的機能を持っていると言えるでしょう。















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