犬と猫の急性嘔吐は膵炎かも|症状・診断・治療を獣医師が徹底解説🐶🐱

猫の膵炎の治療方法

急性嘔吐の背後に膵炎あり、迅速診断と早期支持療法が予後を左右する。

こんにちは。アロハオハナ動物病院かもがわ公園小動物クリニック院長です。


犬と猫の急性嘔吐の裏に潜む「膵炎」

犬や猫の「急に何度も吐く」という症状は、日常診療でも救急でも極めて頻度が高い主訴です。その中で見逃してはならない疾患のひとつが膵炎です。膵炎は軽症から致死的経過まで幅が広く、初期対応の質がそのまま予後に直結します。

本記事では、急性嘔吐を呈する膵炎について、米国の救急・集中治療領域の標準的な考え方に基づき、日本での臨床現場で即応できる形に整理して解説します。


膵炎とは何か(病態の本質)

膵炎は、膵酵素の自己活性化により膵組織が自己消化を受ける炎症性疾患です。特に重要なのは、局所炎症が全身炎症反応(SIRS)へ移行する可能性がある点です。

病態のポイント

  • トリプシン(膵酵素)の早期活性化
  • 膵実質の壊死と炎症
  • 血管透過性亢進 → 浮腫・サードスペース移動
  • サイトカイン放出 → 多臓器障害

犬では急性壊死性膵炎、猫では慢性経過の急性増悪が多い点も臨床的に重要です。


急性嘔吐との関連性

急性嘔吐は膵炎の最も一般的な初発症状のひとつです。

  • 突然の頻回嘔吐
  • 食欲廃絶
  • 前屈姿勢(祈りのポーズ)
  • 腹痛

  • 嘔吐は軽度〜中等度
  • 食欲低下・元気消失が主体
  • 非特異的症状が多い(診断遅延の原因)

猫では「嘔吐が軽い=軽症」とは限らない点に注意が必要です。

嘔吐の原因に関しては別のブログをご参照ください。


原因とリスク因子

膵炎は多因子性疾患です。

主なリスク因子

  • 高脂肪食(特に犬)
  • 肥満
  • 内分泌疾患(糖尿病、クッシング症候群)
  • 高トリグリセリド(中性脂肪)血症
  • 薬剤(ステロイド、抗てんかん薬など)
  • 外傷・虚血
  • 猫では特発性が多い

特に犬では「脂質摂取後の急性発症」は典型的なパターンです。チョコレートや食用油の誤食というシーンによく遭遇します。


鑑別診断(救急で外せない視点)

急性嘔吐=膵炎と短絡せず、必ず以下を同時に評価します。

  • 消化管閉塞(異物)
  • 胃拡張捻転(犬)
  • 腎不全、尿道閉塞
  • 肝胆道疾患
  • 中毒
  • 感染症

膵炎は“除外診断ではなく、並行して疑う疾患”として扱うことが重要です。


診断アプローチ

1. 血液検査

  • CBC・血液生化学検査
  • 電解質
  • CRP(犬)
  • Spec cPL / fPL

※リパーゼ単独では診断価値が低い

2. 画像診断

  • 腹部超音波
    • 膵臓の腫大
    • 低エコー
    • 周囲脂肪の高エコー化
  • X線:除外診断目的

3. 診断の実際

単一検査では確定しないため、「臨床症状+cPL/fPL+超音波所見」などを組み合わせ統合判断が基本です。


重症度評価

予後予測には以下が有用です。

  • 持続的嘔吐
  • 重度脱水
  • 低血圧
  • 血中高乳酸値
  • 低カルシウム
  • SIRS徴候

これらがあれば入院・集中管理を強くお勧めしています。


治療戦略(救急・集中治療の実際)

1. 輸液療法(最重要)

  • 循環維持・膵臓灌流改善
  • 重症例では入院して静脈内点滴

2. 制吐療法

  • マロピタント注射
  • オンダンセトロン注射

嘔吐制御(制吐)は経口栄養再開の鍵

3. 鎮痛管理

  • オピオイド(第一選択)
  • NSAIDsは慎重適応

4. 栄養管理

  • 早期経腸栄養(推奨)
  • 「絶食」が必ずしも正解ではない

5. 抗菌薬

  • 原則不要
  • 感染性合併症疑い時のみ

6. その他

  • 制酸薬(適応症例のみ)
  • 血栓予防(重症例)

猫に特有のポイント

猫の膵炎は以下の特徴があります。

  • 慢性膵炎との連続性
  • 三臓器炎(膵・肝・腸)
  • 非特異的症状

そのため、
「なんとなく元気がない+食欲低下」でも膵炎を疑うことが重要です。


予後と再発

  • 軽症:良好
  • 重症:死亡率高い

  • 慢性化しやすい
  • 再発管理が重要

再発予防

  • 低脂肪食の徹底(犬)
  • 体重管理
  • 基礎疾患のコントロール
  • 定期モニタリング

飼い主さまへの説明で重要なポイント

  • 「軽い胃腸炎」との違い
  • 再発しやすい疾患であること
  • 食事管理の重要性
  • 早期受診の必要性

急性嘔吐の裏に潜む膵炎は、見逃せば重篤化し得る疾患です。
特に救急では「疑う力」と「初期対応の質」が予後を決定します。


よくある質問

Q1. 急に吐いたらすぐ病院に行くべきですか?

A. 1日に複数回吐く場合や元気消失があれば即受診・夜間救急が必要です。

Q2. 膵炎は自然に治りますか?

A. 軽症例は改善することもありますが、自己判断は危険です。

Q3. 犬と猫で違いはありますか?

A. 犬は急性、猫は慢性経過が多いです。

Q4. 食事は止めた方がいいですか?

A. 現在は治療後は早期給餌が推奨されるケースが増えています。

Q5. 再発しますか?

A. はい、特に犬では高率に再発します。

Q6. 脂っこい食事は危険ですか?

A. 犬では明確なリスク因子です。

Q7. 血液検査だけで診断できますか?

A. 単独では不十分で、画像診断などとの併用が必要です。

Q8. 入院は必要ですか?

A. 中等度以上では基本的に必要です。

Q9. 抗生物質は必ず使いますか?

A. 通常は不要です。

Q10. 予防はできますか?

A. 食事管理と体重管理が最も重要です。


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