猫の関節トラブルは高齢猫の60%以上に起こる慢性疾患で、早期発見と継続的なケアが痛みのない生活を守る。
はじめに
こんにちは、アロハオハナ動物病院 かもがわ公園小動物クリニック院長です。
「最近、うちの猫が高いところに上らなくなった」 「以前より寝てばかりいる気がする」 「爪研ぎをしなくなった」
そんな変化に気づいていませんか?
愛知県豊田市でエキゾチックアニマルや猫の診療を続けてきた中で、こうした「なんとなく元気がない」という訴えで来院し、関節に痛みが見つかるケースは少なくありません。
猫ちゃんはワンちゃんと違い、痛みを声に出したり足を引きずったりすることが少ない動物です。だからこそ、関節の問題は「老化の自然な流れ」として見過ごされがちです。
しかし実際には、7歳以上の猫の60〜90%に関節の変性があるとされ、多くの子が静かに痛みを抱えています。今回は、猫の関節疾患について飼い主さまに知っておいてほしいことを、獣医師の立場から詳しく解説します。

猫の変形性関節症とは
関節とは、骨と骨をつなぐ部分のことです。正常な関節には軟骨がクッションとして存在し、滑らかな動きを可能にしています。
変形性関節症(OA:Osteoarthritis)とは、その軟骨が少しずつすり減り、関節周囲の骨や滑膜(かつまく)に炎症や変形が起きる慢性疾患です。一度変形した関節軟骨は元には戻りません。
かつては「猫は犬ほど関節炎にならない」とも言われていましたが、近年の研究では高齢猫の多くが変形性関節症を発症していることが明らかになっています。猫は痛みを隠す動物であるため、気づかれにくかっただけなのです。
よく起きる部位
猫の変形性関節症は、以下の関節に多く見られます。
- 股関節
- 肘関節
- 肩関節
- 膝関節
- 腰椎・仙腰部(背骨の下部)
原因と発症しやすい猫
変形性関節症には、原発性(加齢性)と二次性の2種類があります。
原発性(加齢性): 加齢により軟骨が徐々にすり減ることで起こります。シニア猫に最も多いタイプです。
二次性(他の疾患・要因による):
- 肥満(関節への荷重増加)
- 骨折や脱臼の後遺症
- 股関節形成不全などの先天的な問題
- スコティッシュフォールドなどの遺伝的な骨軟骨異形成
特に注意が必要な猫種:スコティッシュフォールドについて
スコティッシュフォールドは、耳が折れるという外見上の特徴と引き換えに、骨軟骨異形成症(骨の形成に関わる遺伝子異常)を持って生まれてくる猫種です。
この疾患は、関節だけでなく全身の骨に異常な骨形成をきたし、若い猫でも激しい痛みを引き起こすことがあります。「スコ立ち」と呼ばれる独特の前肢を上げた姿勢も、前肢関節の痛みを回避しようとするサインのひとつです。
スコティッシュフォールドを飼われている方は、「まだ若いから大丈夫」と思わず、定期的に整形外科的なチェックを受けることをお勧めします。

飼い主さまが気づける「痛みのサイン」
猫ちゃんは痛みを本能的に隠します。これは野生の名残で、弱みを見せないための本能的な行動です。そのため、「鳴いている」「跛行(はこう)がある」という分かりやすいサインが出ることは少なく、以下のような行動の変化として現れることがほとんどです。
動作・行動の変化
- 高い場所(キャットタワー・棚・ソファ)に上らなくなった
- ジャンプをためらうようになった、または着地が以前と違う
- 階段の上り下りを嫌がる
- 歩き方がぎこちない、またはゆっくりになった
日常習慣の変化
- グルーミング(毛づくろい)をしなくなった、またはしにくい部位が増えてぼさぼさ
- 爪研ぎをしなくなった
- トイレの出入りを嫌がる(またはトイレに間に合わなくなった)
- 食欲の低下
気質・態度の変化
- 触られることを嫌がる(特に背中・腰・関節周辺)
- 抱っこを嫌がる
- 以前より攻撃的になった、または逆に元気がなくなった
- 活動量が減り、寝てばかりになった
これらは「年のせい」と混同されやすいですが、痛みを抱えているサインである可能性があります。「今までと比べてどうか?」という視点で愛猫の日常を振り返ってみてください。
診断:動物病院ではどんな検査をするの?
飼い主さまから行動の変化について詳しくお聞きした後、以下の流れで診断を進めます。
1. 問診 いつ頃から変化があったか、どんな場面で症状が出るかを詳しく伺います。
2. 身体検査・触診 関節の可動域、圧痛の有無、関節周囲の腫れや変形を確認します。
3. レントゲン検査(X線) 関節の骨の状態を確認します。関節裂隙(かんせつれつげき)の狭小化、骨棘(こつきょく:余分な骨の突出)、軟骨の変性による変化などを評価します。初期段階では変化が分かりにくいこともあります。
4. 必要に応じて追加検査 関節液の採取・分析、超音波検査、血液検査(他疾患との鑑別のため)などを行うことがあります。

データで見る猫の変形性関節症:「気づかれていない病気」の実態
ここで、獣医学の研究データをもとに、猫の関節疾患がいかに広く・見過ごされているかをご紹介します。日本大学動物病院整形外科の枝村一弥先生ら(2026年)が学術大会で発表したデータも含め、現在わかっていることをお伝えします。
罹患率は年齢とともに急増する
6歳以上の家庭猫100頭を対象にした研究では、61%の猫に少なくとも1つの関節にOAが存在し、14歳以上になると82%に上ることが報告されています(Hardie & Roe, J. Am. Vet. Med. Assoc. 2002)。
また日本国内の大学病院データ(NU-ANMEC)では、10〜11歳台の猫では43〜47%だった罹患率が、12歳を境に70%を超え、その後は年齢とともにさらに増加するという傾向が示されています。
スコティッシュフォールドは別格の高リスク
同データでは、日本猫では約65%に関節変性が認められたのに対し、スコティッシュフォールドは調査対象全例(100%)に変形性関節症または変形性脊椎症が認められました。スコティッシュフォールドが「若くても痛みを抱えている可能性がある」ことは、数字としても裏付けられています。
最も変化が多いのは「肘関節」
猫のOAが最も多く発生する部位は肘関節(90%)であり、次いで脊柱の腰仙部に多く認められます(Slingerland et al., Res. Vet. Sci. 2011)。これは犬(股関節・膝関節が多い)とは異なる傾向で、猫に特有のパターンです。
猫ちゃんは、肘が痛いと高いところから降りることをためらうような素振りを見せます!
来院率はわずか1.8%:ほとんどの猫が病院に来ていない
国内の動物病院での統計では、猫の運動器疾患の来院率は全来院猫のわずか1.8%にとどまっています(アニコム家庭どうぶつ白書 2025)。罹患率が60〜80%であることを考えると、いかに多くの猫ちゃんが「気づかれないまま痛みを抱えている」かがわかります。
飼い主さまが認識しやすい初期サインとして、研究では「立ち上がるのがつらそう」という変化が最も多く挙げられており、次いで「抱っこを嫌がる」「動作が鈍くなる」が続きます。逆に言えば、この段階ではじめて「もしかして?」と気づく飼い主さまが多いということです。
猫ちゃんの顔写真から痛みの有無を判断するアプリ登場!
ねこちゃんでは、株式会社Carelogyと、動物のいたみ研究会(代表:枝村一弥・日本大学)が共同開発した、痛みを顔写真から検知することが可能なAIサービスが、リリースされました。

顔写真をアップロードするだけで、猫の表情をAIが分析し、痛みの徴候を調べることができるサービスです。すべて無料でお使いいただけるようです。

最前線の話題:尿検査で関節炎をスクリーニングできる時代へ
これまで猫の関節疾患の診断は、触診やレントゲン検査が中心でした。しかし近年、尿中CIINE(II型コラーゲンネオエピトープ)という新たなバイオマーカーが注目されています。
CIINE(シーツーエヌイー)とは、関節軟骨が壊れるときに生成されるII型コラーゲンの分解産物です。関節の破壊が進むほど尿中に多く検出されるため、「関節が今どのくらいダメージを受けているか」を尿で把握できる可能性があります。
枝村教授らの研究では、OAに罹患した犬・猫では正常群と比較してCIINE値が有意に高く、特に変形性関節症では他の疾患(腎臓病・皮膚疾患・心疾患など)と比べても高値を示すことが確認されています。
猫での検討でも同様に、変形性関節症群で有意に高い値(p=0.033)が報告されています。
飼い主さまへの実際の活用イメージ
「最近元気がなくて足腰が心配…でも、いきなりレントゲンを撮るのはちょっと…」という飼い主さまにとって、まず尿検査でスクリーニングし、基準値を超えた場合に触診・レントゲン検査へ進む、という流れは非常に受け入れやすいアプローチです。
この検査はまだ猫ちゃんの一般臨床への導入が始まったばかりの新しい検査ですが、定期健診の一項目として定着する可能性があります。当院でも情報収集を続けており、積極的にお勧めしております。「おしっこ外来」などでもご案内いたします。

治療:猫の関節炎に対するアプローチ
変形性関節症は完治が難しい慢性疾患です。治療の目標は「痛みをコントロールし、QOL(生活の質)を維持すること」です。
1. 体重管理
最も重要な治療のひとつです。体重が増えるほど関節への荷重が増し、痛みが強くなります。スリムな理想体重を維持することで、関節への負担を大きく減らすことができます。
2. 環境の整備(ご自宅でしかできないこと)
- 段差をなくす・スロープを設置する(トイレ、食器台、お気に入りの場所への動線)
- フチが低くて出入りしやすいトイレに変更する
- 床の滑り止め(フローリングは滑りやすく関節に負担がかかります)
- 暖かく休める場所を確保する(寒さは痛みを悪化させます)
- キャットタワーはステップ幅が広く傾斜がゆるやかなものに変更する
これらの環境調整だけで、猫ちゃんの行動量・表情が改善することは珍しくありません。

3. 鎮痛薬(NSAIDs)
非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)は、炎症を抑え痛みを緩和します。猫ちゃんは肝臓でNSAIDsを代謝する能力が犬や人より低く、過剰投与や不適切な薬の使用が腎機能障害を引き起こすことがあります。自己判断での投与は絶対に避け、必ず獣医師の処方と指示に従ってください。
また、多くの高齢猫は慢性腎臓病(CKD)を併発しているため、NSAIDsの使用が難しいケースも多くあります。
4. 抗NGF抗体薬(ソレンシア®)
2023年に国内で販売が開始されたフルネベトマブ(商品名:ソレンシア)は、猫の変形性関節症の痛みに対する画期的な新薬です。
神経成長因子(NGF)という痛みの知覚を高める物質の働きを抑えることで、痛みを緩和します。月1回の皮下注射という投与法は、毎日の投薬が難しい猫ちゃんにとっても飼い主さまにとっても大きな利点です。
CKDを併発している高齢猫にも比較的使いやすく、NSAIDsが使いにくい症例での選択肢として注目されています。
ただし、副作用について論争があり、当院では使用を見合わせております。

5. サプリメント
グルコサミン、コンドロイチン、オメガ3脂肪酸(EPA・DHA)などが補助的に使用されます。単独では効果のエビデンスに限界がありますが、他の治療と組み合わせることで関節のケアに役立つ場合があります。
6. その他の治療
- レーザー療法(低反応レベルレーザー):痛みの緩和と組織の修復促進
- 鍼灸療法:慢性疼痛の補助的治療として用いられることがある
- 外科手術:重度の場合に関節固定術や人工関節置換術が選択されることがある
猫の変形性関節症の予防・進行を遅らせるために
変形性関節症の進行を完全に止めることはできませんが、以下の習慣が発症を遅らせたり、症状を軽くすることにつながります。
適正体重の維持 肥満は関節への最大のリスクです。フードの量とカロリーを適切に管理し、定期的に体重測定を行いましょう。
適度な運動 筋肉は関節を守るためのサポーターです。筋力が低下すると関節への負担が増します。痛みがない範囲での遊びや軽い運動を習慣にしましょう。ただし関節に負担がかかりすぎる激しい運動は逆効果です。
定期検診 7歳を過ぎたら、少なくとも年1〜2回の健康診断で関節のチェックを受けることをお勧めします。痛みのサインが出てからでは、すでに進行しているケースも少なくありません。
寒さ対策 冬場は関節の痛みが出やすくなります。室温管理と温かい寝床の確保は大切なケアのひとつです。

豊田市(愛知県)でのご相談について
アロハオハナ動物病院 かもがわ公園小動物クリニックでは、猫・小型犬・エキゾチックアニマルを対象に、整形内科を含む総合診療を行っています。
「うちの子、最近おとなしくなった気がして…」という漠然とした不安でもかまいません。些細な変化が、大切な病気のサインであることがあります。
愛知県豊田市・岡崎市・日進市・安城市・刈谷市周辺にお住まいの方は、お気軽にご相談ください。診療後のLINEフォローアップも行っており、受診後の経過観察も一緒に行います。

まとめ
猫の変形性関節症は「老化で仕方がない」ではなく、適切なケアと治療で痛みをコントロールできる疾患です。
痛みを表現しにくい猫ちゃんだからこそ、飼い主さまが行動の変化に気づき、早めに動物病院へ相談することが最大の予防になります。
ちょっとした変化を見逃さず、愛猫が痛みなく暮らせる毎日をサポートしてあげましょう。

よくあるご質問(Q&A)
Q1. 猫の関節炎はどれくらいの年齢から起こりますか?
A. 変形性関節症は主に7歳以上のシニア猫ちゃんに多く見られますが、スコティッシュフォールドなど遺伝的な素因がある場合は若齢から発症することがあります。定期検診で早期発見を心がけましょう。
Q2. 猫が跛行(足を引きずる)していないのに関節炎はありますか?
A. はい、あります。猫ちゃんは四肢が均等に痛む場合や、痛みを本能的に隠す習性があるため、跛行なしに関節炎が進行していることは珍しくありません。活動量の低下や行動の変化が主なサインです。
Q3. スコティッシュフォールドは特に注意が必要ですか?
A. はい。スコティッシュフォールドは遺伝的な骨軟骨異形成症を持っており、若くても重度の関節痛が起きることがあります。飼っている方は年齢に関わらず、定期的な関節チェックをお勧めします。
Q4. 人用の痛み止めを猫に与えてもいいですか?
A. 絶対にいけません。アセトアミノフェン(タイレノール®など)は猫に致死的毒性があります。イブプロフェンなど人のNSAIDsも猫には危険です。必ず獣医師が処方した猫用の薬を使用してください。
Q5. ソレンシア®(フルネベトマブ)はどんな猫に向いていますか?
A. 月1回の皮下注射で痛みを管理できるため、毎日の投薬が困難なケースや、慢性腎臓病があってNSAIDsが使いにくい高齢猫ちゃんに特に有効です。当院では使用を見合わせておりますが、ご相談ください。
Q6. 猫の関節炎は治りますか?
A. 変形性関節症は一度起きた軟骨の変性が完全に元に戻ることはなく、根本的な完治は難しい疾患です。ただし、適切な治療と環境調整によって痛みをコントロールし、高いQOLを保つことは十分に可能です。
Q7. 関節炎の猫にはどんな食事が良いですか?
A. 最優先は適正体重の維持です。肥満は関節への負担を直接増やします。また、オメガ3脂肪酸(EPA・DHA)を含む食事やサプリメントが補助的に役立つ場合があります。フードの変更は獣医師にご相談ください。
Q8. 自宅でできるケアで一番大切なことは何ですか?
A. トイレや食器・水飲み場、お気に入りの場所への段差をなくすことが最も効果的です。低いフチのトイレに変えるだけで、排泄の負担が減り活動量が改善する猫もいます。床の滑り止めも関節保護に有効です。
Q9. 関節炎の診断にはどのくらい費用がかかりますか?
A. 病院によって異なりますが、一般的に初診料・身体検査・レントゲン検査を合わせて1~2万円程度が目安です。ペット保険に加入している場合は補償の対象になることが多いので、保険証をお持ちください。
Q10. 関節炎の猫がいる場合、キャットタワーは撤去すべきですか?
A. 完全に撤去する必要はありませんが、ジャンプの高さや段差が猫の負担になっている場合は見直しが必要です。スロープや中間ステップを追加して、少しずつ登れるように改造することをお勧めします。無理なジャンプを強いる環境は痛みを悪化させます。
Q11. 犬の関節炎を尿検査で調べられると聞きましたが、どういうことですか?
A. 「尿中CIINE(II型コラーゲンネオエピトープ)」という、関節軟骨が破壊される際に生成されるバイオマーカーを尿から測定する検査法が研究されています。OAに罹患した猫・犬では正常群より有意に高い値が確認されており、触診やレントゲンより前段階のスクリーニングとして活用が期待されています。現時点ではまだ猫ちゃんでは一般臨床への普及途上ですが、近い将来、健診の一項目として定着する可能性があります。
Q12. 猫の関節炎は実際には何%の猫に起きているのですか?
A. 研究によると、6歳以上の家庭猫の約61%、14歳以上では約82%に変形性関節症が認められると報告されています。一方で、動物病院への運動器疾患での来院率は全猫のわずか約1.8%にとどまっており、ほとんどの猫が受診できていないのが現状です。「年のせい」と思わずに、気になる変化があれば早めにご相談ください。

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