CKDの貧血は食欲不振を招く。通院による注射に加えご自宅での内服という新たな選択肢が誕生。
こんにちは、アロハオハナ動物病院かもがわ公園小動物クリニック院長です。
愛知県豊田市でも、「うちの猫、CKDって言われたけど最近ごはんを食べなくなって…」というご相談が増えています。
実はその食欲低下、腎臓の数値だけでは説明できない「貧血」が背景にあることが少なくありません。
これまで貧血の治療は通院での注射が中心でしたが、2026年、ご自宅で飲ませられる内服薬という新しい選択肢が加わりました。
今回は、CKDと貧血の関係、そして新薬について、エビデンスに基づいて分かりやすく解説します。

猫の慢性腎臓病(CKD)で貧血が起こるのはなぜ?
腎臓が赤血球を作るホルモン「エリスロポエチン(EPO)」を出せなくなることが、CKDによる貧血(腎性貧血)の直接の原因です。
腎臓には、老廃物を尿として排出するだけでなく、骨髄に「赤血球を作りなさい」と指令を出すEPOというホルモンを分泌する役割があります。CKDが進行して腎臓の組織がダメージを受けると、このEPOの分泌量が減少し、寿命を迎えて壊れていく赤血球の数に、新しく作られる赤血球の数が追いつかなくなります。これが腎性貧血のメカニズムです。猫はもともとネフロン(尿を作る装置)の数が犬や人より少なく、腎臓に負担がかかりやすい動物であるため、CKDに伴う貧血も比較的よく見られる合併症のひとつです。
- 人:約100万個 /片腎
- 犬:約40万個 /片腎
- 猫:約20万個/片腎

CKDの貧血は「食欲不振」の隠れた原因になります
猫の貧血は、酸素を運ぶ力そのものが低下する病態のため、体がだるくなり食欲が落ちるという形で表面化することがよくあります。
「腎臓病用のフードに切り替えたのに食べる量が増えない」「以前より動きたがらない」といったご相談の裏側に、実は貧血が隠れているケースは珍しくありません。貧血は赤血球(酸素を運ぶ役割)が減っている状態なので、全身が軽い酸欠状態になり、消化機能も含めた活力全体が落ちてしまうのです。血液検査でクレアチニンやSDMAだけでなく、ヘマトクリット値(PCVとも)も一緒にチェックすることが、食欲不振の原因を見極めるうえで重要になります。

これまでの治療法|エリスロポエチン(EPO)製剤の注射
貧血治療の基本は、不足しているEPOを外から補う「EPO製剤」の投与で、これまでは通院での皮下注射が標準的な方法でした。
猫専用のEPO製剤(エポベットなど)は、2週に1回程度のペースで動物病院にて皮下注射を行います。効果は確立されていますが、①通院の負担、②注射という侵襲、③人用製剤の場合にはEPOに対する抗体ができて効きにくくなることがある、といった課題も指摘されてきました。それでも、貧血が進行して命に関わる状態を防ぐために、これまで多くの猫ちゃんの生活を支えてきた治療法です。

新しい選択肢|内服薬とは
モリデュスタット製剤として登場した新薬は、猫の体内で自分自身のEPOを作らせる、飲むタイプの新しい腎性貧血治療薬です。
有効成分モリデュスタットは、「HIF-PH阻害薬」という種類の薬に分類されます。腎臓に負担をかけて外からEPOを注射するのではなく、体が本来持っているEPOを作る仕組みそのものを活性化させるという、これまでとは異なるアプローチです。1日1回、ご家庭で経口投与できる液剤タイプのため、通院での注射が難しい猫ちゃんや、通院自体がネックになりやすいご家庭にとって、大きな選択肢の広がりになります。
- 投与方法:1日1回、ご家庭で内服
- 対象:CKDに伴う非再生性貧血のある猫
- メリット:通院での注射が不要、ストレス軽減
- 注意点:獣医師の診断・処方が必要な処方薬であり、定期的な血液検査によるモニタリングが必須

実は人の医療ですでに使われている成分です
有効成分モリデュスタットの製剤は、実は人の腎性貧血治療薬としてすでに国内で使用されている成分です。
人の医療では「マスーレッド」という商品名で2021年から保険適用されており、透析を必要とする患者さんだけでなく、透析前の保存期の慢性腎臓病患者さんにも使われている錠剤です。○○○デュスタットというHIF-PH阻害薬のグループは人では複数種あり、人の腎臓内科領域ではすでに実績のある治療選択肢であり、それが猫の医療にも応用された形になります。人と猫では用法・用量やそのままの流用はできませんが、「メカニズムに裏付けのある成分」という意味で、飼い主さまにも安心材料のひとつになるかと思います。
注射と内服、どちらが向いている?比較表
| 比較項目 | EPO製剤(注射) | モリデュスタット製剤(内服) |
|---|---|---|
| 投与方法 | 通院しての皮下注射(2週に1回程度) | ご自宅で1日1回内服 |
| 作用の仕組み | 外からEPOを補充する | 体内でのEPO産生を促す |
| 通院負担 | 定期的な通院が必要 | 通院はモニタリング検査時のみ |
| 抗体形成リスク | 製剤によりまれに問題となることがある | 現時点でEPOそのものではないため機序が異なる |
| 処方 | 動物病院での処方・注射 | 獣医師の診断のもとでの処方薬 |
どちらが適しているかは、猫ちゃんの性格、通院のしやすさ、貧血の重症度などによって異なります。かかりつけの獣医師とよく相談して選択することが大切です。

貧血を早期発見するためにできること
CKDの貧血は進行がゆっくりで猫が不調を隠すため、飼い主さまが気づいた時にはすでに重度になっていることが多く、定期検査での早期発見が何より重要です。
7歳を超えたら年1〜2回、血液検査(クレアチニン・SDMA)と一緒にヘマトクリット値もチェックすることをおすすめします。歯茎や舌の色が白っぽい、以前よりぐったりしている、呼吸が浅く速いといった様子が見られたら、貧血がかなり進んでいるサインの可能性があるため、様子を見ずに早めの受診をおすすめします。
豊田市で愛猫のCKD・貧血が心配な方へ
当院では、猫・小型犬・エキゾチックアニマルを35年以上診てきた獣医師が、CKDの早期発見から貧血治療の選択肢のご相談まで、飼い主さまの状況に合わせてご提案しています。通院が負担になりやすい猫ちゃんについても、無理のない治療プランを一緒に考えます。気になる症状がある方は、お気軽にLINEよりご相談ください。
よくある質問(Q&A)
Q1. CKDになると必ず貧血になりますか?
A. 必ずではありませんが、CKDが進行するほど貧血を合併する割合は高くなります。定期的な血液検査での確認が大切です。
Q2. 猫の貧血にはどんな症状がありますか?
A. 元気消失、食欲不振、歯茎や舌が白っぽくなる、呼吸が浅く速くなるなどが代表的なサインです。
Q3. バレンジンはどんな猫に使えますか?
A. CKDに伴う非再生性貧血と診断された猫が対象です。獣医師の診断と定期的な血液検査によるモニタリングのもとで使用します。
Q4. バレンジンとEPO注射、どちらを選べばいいですか?
A. 通院の負担や猫の性格、貧血の程度によって適した方法が異なります。かかりつけ医と相談のうえ決めるのがおすすめです。
Q5. バレンジンに副作用はありますか?
A. 消化器症状(嘔吐・下痢)、血圧上昇、赤血球の増えすぎなどが報告されています。定期検査で経過を確認しながら使用します。
Q6. 貧血の検査はどのように行いますか?
A. 採血によるヘマトクリット値やヘモグロビン濃度の測定が基本で、腎機能検査(クレアチニン・SDMA)と併せて評価します。
Q7. バレンジンは病院を通さず購入できますか?
A. 処方薬のため、動物病院での診断・処方が必要です。市販での購入はできません。
Q8. 成分が人の薬と同じということは、人用の薬を猫に使ってもいいですか?
A. いいえ。有効成分の分類は同じでも、用法・用量・製剤設計が動物専用に調整されているため、必ず猫用として処方されたものを使用してください。
Q9. 貧血の数値が改善したら薬をやめてもいいですか?
A. 自己判断での中止は貧血の再燃につながることがあります。必ず獣医師の指示に従って調整してください。
Q10. 何歳から定期検査を始めるべきですか?
A. 7歳を超えたあたりから年1〜2回の血液検査・尿検査を始めることをおすすめします。高齢猫ではより頻回のチェックが安心です。

アロハオハナ動物病院 かもがわ公園小動物クリニック
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