🐍 ヘビの呼吸器疾患の獣医学的観点について

ビルマニシキヘビ

こんにちは!アロハオハナ動物病院かもがわ公園小動物クリニック院長です。
今回は、ヘビの呼吸器に関する病気のお話です。


1. 発生率・疫学

  • 気道疾患はヘビの代表的な疾患の一つ。
  • 特にボア(Boidae)やニシキヘビ(Pythonidae)など大型種での罹患率が高い。
  • 飼育下の個体では、環境因子が大きく関与。

2. 解剖学的特性と病態生理

  • 横隔膜がない → 咳反射・排出機能が乏しい
  • 肺は袋状構造で、右肺が主(左肺は退化傾向)。
  • 上記が要因となり、粘液や滲出液の排出が困難で、分泌物が肺内に貯留しやすい

3. 素因

飼育環境由来

  • 低温(特に冬季、夜間)
  • 湿度不適(高すぎ/低すぎ)
  • 換気不良 → 尿酸由来のアンモニアガス蓄積

他の要因

  • 口腔感染症 → 吸引による肺感染へ波及
  • 繁殖期・繁殖ストレス
  • 栄養不良やビタミン欠乏
  • 過密飼育、野生捕獲個体

4. 鑑別診断

感染性病原体

細菌性感染

  • 多くがPseudomonas sppなどのグラム陰性菌を中心とした日和見感染
  • Clostridiumなどの嫌気性菌やStreptococcusなどのグラム陽性菌が日和見感染することも
  • クラミジア:一部ボアやニシキヘビで報告あり
  • マイコプラズマ:ビルマニシキヘビPython molurus bivittatusなどで増殖性気管炎

ウイルス性感染

  • フェラウイルス(Paramyxovirus):毒ヘビ・一部ボア・ナミヘビ科で報告
  • ニドウイルス(Serpentovirus):特にボールパイソン・モレリア属(グリーンツリーパイソン、カーペットパイソンなど)で重要

寄生虫

  • 吸虫、線虫(Rhabdias spp., Strongyloides spp.)、舌虫類、原虫

真菌/腫瘍

  • まれ(気管軟骨腫など)

5. 臨床症状

  • ゼーゼー、ゴボゴボ、ポンポンという異常呼吸音
  • 開口呼吸、鼻孔の閉塞
  • 頭部浮腫、頸部伸展など異常姿勢
  • 活動性低下、食欲不振
  • 脱皮不全(とくに鼻孔部)

6. 身体検査所見

  • 鼻孔・口腔の分泌物増加
  • 粘液は泡状またはロープ状
  • 鼻孔閉塞による口呼吸
  • 聴診でのラ音(特に声門・気管・鼻孔のどこからかを区別)
  • 痩せ、筋肉量減少

💡 診断アプローチ(実践的ステップ)

検査項目解説
身体検査呼吸音の局在、姿勢観察、分泌物の性状評価
鼻孔の通気テスト生理食塩水滴下で吸引されるか確認
X線検査肺野の不透明化、気管の拡張・変位など
気管洗浄細胞診・培養用:細菌性/ウイルス性の鑑別に有用
PCR検査(可能であれば)フェラウイルス、ニドウイルス、マイコプラズマ、クラミジア
糞便検査寄生虫(線虫・原虫)スクリーニング
血液検査(可能であれば)全身状態、白血球数の確認

🩺 治療(要点)

病原体処置例(参考)
細菌抗菌薬:感受性に基づく
ウイルス隔離・対症療法、二次感染予防
マイコプラズマドキシサイクリン(28日以上投与)
寄生虫フェンベンダゾール
支援療法保温(30~32℃)、加湿、強制給餌、輸液

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