最終更新日:2025年10月18日
こんにちは。アロハオハナ動物病院かもがわ公園小動物クリニック院長です。
今回は、ウサギで非常に多くみられる「歯の不正咬合(malocclusion)」について、
アメリカのエキゾチックアニマル専門医の最新知見も交えながら、詳しくご紹介します。

🦷 不正咬合とは
ウサギの歯は一生伸び続ける「常生歯(elodont teeth)」です。
上顎の切歯(前歯)だけでなく、臼歯(奥歯)も同様に伸長し続けます。
この歯が正常にすり減らず、噛み合わせがずれてしまう状態を「不正咬合」といいます。
🌿 原因:飼育・食餌環境によるものが大半
① 食餌性要因(最も多い)
アメリカのウサギ歯科専門医(例:Dr. Cathy Johnson-Delaney, Dr. James Wellehan)らによる報告では、
70〜80%以上の不正咬合は、食餌性原因によるとされています。
- 牧草摂取量の不足
→ チモシーなどの長繊維牧草を常時自由摂取できる環境が不可欠。
牧草を噛むときに上下の歯が強くこすれ合い、自然にすり減ります。
牧草が足りないと、歯が過剰に伸び、尖った部分が舌や頬を傷つけます。 - ペレット中心の食生活
→ ペレットは柔らかく、咀嚼回数が少なくなるため、臼歯の削れ不足を引き起こします。 - おやつ(ドライフルーツ・パン・野菜スティックなど)の与えすぎ
→ 咀嚼刺激が少なく、糖質が多いことで口腔内環境も悪化します。
② 遺伝的・先天的要因
特にネザーランドドワーフやホーランドロップなど、短頭種(顔が短い品種)では
顎の長さのバランスが悪く、生まれつきの不正咬合を起こしやすいです。
③ 外傷性要因
顎をぶつけたり、金属ケージを齧ることで歯を折ったことをきっかけに、歯列全体がズレてしまうこともあります。

⚠️ 主な症状
不正咬合が起こると、以下のような症状が見られます。
- 食欲低下、好きな牧草を食べなくなる
- よだれ(口の周りや喉の毛が濡れている)
- 顔の腫れ(根尖膿瘍)
- 鼻水や涙(鼻涙管が圧迫される)
- 体重減少
- 頬をかく、顔を気にする
初期では「食べ方が少し変」「ペレットだけ食べる」など、
ごくわずかな変化しか見られないこともあります。早期発見が大切です。

🏥 病院での検査
アメリカのエキゾチックアニマル病院(例:Tufts University, University of California Davis など)でも、
以下のような段階的な診断アプローチが取られます。
- 視診・口腔鏡検査
麻酔なしで前歯を観察し、異常な伸びや湾曲を確認します。 - 全身麻酔下での口腔内精査
臼歯の尖り(スパー)や頬・舌の潰瘍を確認。 - デンタルX線(頭部レントゲン)
歯根の伸び・変形・膿瘍形成を評価します。
アメリカの大学病院などの二次診療施設ではCT検査が行なわれることも一般的です(特に慢性例では標準検査)。

💊 病院での治療・対処法
① 歯のトリミング(研磨)
特殊な歯科用バー(高速ハンドピース)を用いて、過伸長した切歯・臼歯を短く整える処置です。
麻酔下で慎重に行ない、数週間〜数か月ごとの再処置が必要になることもあります。
② 根尖膿瘍(歯根膿瘍)の治療
膿瘍が形成されている場合、アメリカでは外科的切開+抜歯+抗菌薬治療が推奨されます。
日本では難易度が高いため、膿瘍管理を目的とした保存療法にとどまることもあります。
③ 栄養サポート
牧草が食べられない期間は、強制給餌(「Critical Care」「ライフケア」など)を使用し、胃腸の動きを維持することが大切です。

🌈 予後(アメリカでの見解)
アメリカの専門医たちは、慢性の不正咬合は完治しないと明言しています。
原因歯が変形している場合、数週〜数か月おきのメンテナンスが一生必要です。
- 軽度(切歯のみ) → 定期的なトリミングで良好に維持可能
- 臼歯や根尖膿瘍を伴う重度例 → 慢性的管理または安楽死の選択も考慮されます
実際、米国の臨床現場では「痛み・摂食不能・慢性膿瘍が制御困難な場合」は安楽死(euthanasia)も飼い主と相談の上で選択されます。
ただし、痛みがコントロールできている限りは延命よりも快適な生活を重視します。

🏡 日本のご家庭でできる予防法
✅ 1. 牧草中心の食事
チモシー1番刈りを主食にし、常時食べ放題にしておくことが最重要。
ペレットは補助的にして、体重の1〜2%以内に抑えましょう。
✅ 2. 固いおやつは避ける
「かじり木」で歯を削ってあげようと期待することは的外れだと考えています。むしろ歯に負担をかけて欠けてしまうリスクもあります。ただし、野生では、木の皮を齧ったりしていたので、齧るという生理的欲求や「暇つぶし」としての環境エンリッチメントには寄与すると思います。
✅ 3. 顔・口まわり・涙のチェックを習慣に
よだれ・涙・鼻水・口臭などの小さなサインを見逃さないこと。ご自宅での月1回の体重測定も、早期の異常を発見できる可能性があります。
✅ 4. 定期健診
ウサギは痛みに強く、というか、弱みを見せないようにして、症状が分かりにくい動物です。半年に1回以上の歯科チェックを含めた健康診断をおすすめします。
🩺 まとめ
- 不正咬合の多くは食餌性。牧草を主食に。
- 一度起こると再発しやすく慢性化する。
- アメリカではCTや抜歯手術も。
- 日本では予防と定期的メンテナンスが現実的な治療戦略。
- 飼い主さまが日々の変化に気づくことが最大の予防。
🐰ウサギの不正咬合に関するQ&A(よくある質問)
Q1. 不正咬合は治りますか?
A1. 完全には治らないことが多く、定期的な歯のトリミングで管理します。早期に発見すれば快適に暮らせる場合もあります。
Q2. どのくらいの頻度で歯を削る必要がありますか?
A2. 個体差がありますが、平均して数週間~数ヶ月ごとに調整が必要なケースが多いです。
Q3. 牧草を食べていれば不正咬合にはなりませんか?
A3. 牧草中心の食生活は最も重要な予防策ですが、ケージなどの環境要因や遺伝的要因などで発症する場合もあります。
Q4. 家で歯を削ることはできますか?
A4. 危険なので絶対に避けてください。動物病院で麻酔下での安全な処置が必要です。
Q5. よだれが出ているだけでも受診したほうがいいですか?
A5. はい。初期の不正咬合や膿瘍のサインであることが多く、早期検査が予後を左右します。

🐇 当院では
当院では、ウサギ専門の歯科器具とX線検査(レントゲン)を用いて、定期的な歯のチェックや口腔ケアを行なっています。「牧草を食べなくなった」「よだれが多い」など、小さなサインが出たらお気軽にご相談ください。
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アロハオハナ動物病院 かもがわ公園小動物クリニック
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