こんにちは、アロハオハナ動物病院かもがわ公園小動物クリニックの院長です。
カメの健康管理と予防医療:硬い甲羅の向こうに潜む病気に備えよう
エキゾチックペットとしての代表格である、カメの飼育について、獣医師の立場からお話しさせていただきます。
ペットショップの立場、ブリーダーの立場、愛好家の立場など、各専門分野での立場により見解は異なることが予想されますので、あくまでも病気のカメの診療にあたっている獣医師の立場からということでお話しさせていただきます。
カメ類の飼い主さまは、犬や猫の飼い主さまと同レベルの獣医療を希望されます。爬虫類の最も一般的な症状の 1 つは、消化器疾患です。食欲不振、異食、吐き戻し、下痢、便秘、無気力、体重減少などがあります。犬猫で一般的に使用されている診断方法は、爬虫類にも使用できます。消化器疾患で多く見られる原因は寄生虫と消化管閉塞と考えていますので、身体検査、X線検査、超音波検査、および糞便検査が爬虫類医学でも応用できます。
しかし、そのサイズゆえに、適用できないこともあります。とくに、カメは硬い甲羅に覆われているために、検査の適応に限界があります。検査しても、よく分からないということもあります。
ですから...
予防が大切ということになります!!!
1. カメの病気と診断の難しさ
カメは一般的に硬い甲羅に覆われ、そのサイズや構造からくる特有の制約があります。消化器疾患などの症状が現れた場合、一般的な診断手法は使用できますが、甲羅の厚さや形状により、一部の検査が難しくなることもあります。これは、カメの持つ解剖生理学的特徴によるものであり、診断の精度を求める上で注意が必要です。
2. 消化器疾患へのアプローチ
2.1 身体検査
カメの身体検査は、犬猫と同様に行なわれますが、甲羅の特性を考慮して慎重に行ないます。触診や視診を通じて、異常の有無をチェックすることが重要です。食欲不振と無気力は、消化管疾患の最も一般的な兆候ですが、これはすべての病気に共通する症状でもあります。
2.2 画像検査
X線検査や超音波検査は、カメの内部構造を観察するために有用です。ただし、甲羅の影響を受けることが多く、解釈が難しい場合があります。診断においては他の手法との組み合わせが求められます。バリウムの投与は診断に役立つ場合がありますが、多くの爬虫類は哺乳類に比べて消化管通過時間が非常に遅いため、一連のバリウムの投与が完了するまでに数日から数週間かかる場合があります。
消化管内異物の存在をチェックすることが最大の目的です。
腸内腔より大きな床材の摂取または大量の小さな床材の摂取により消化管の閉塞が発生する可能性があります。砂利、砂、樹皮および木材チップ、粉砕したクルミの殻、繊維状の植物材料、およびプラスチックまたは合成材料の報告があるようです。食餌を与える際に、付着して一緒に飲み込まれてしまうこともあるし、異食といって、本来なら食べないようなものを故意に摂取してしまうこともあります。
上記の飼育ケースについて見てみましょう。画面左側は石のブロックになっていますが、右側はどうでしょう。このように砂やクルミ殻を床材として用いると誤って食べてしまうことがあります。少し食べて排泄し、また少し食べて排泄してくれるということなら、問題は起きにくいと思いますが、毎日毎日食べてしまうと徐々に消化管が詰まってしまうかもしれません。おまけに砂利であればX線検査でしっかり写りますが、クルミ殻のようなものだと、それはX線写真では写りません。沢山詰まって初めて異常に気付かされます。
2.3 糞便検査
寄生虫や消化器の異常を検出するための糞便検査は、日常の健康診断においても重要です。正確な結果を得るためには、定期的な検査が推奨され、少なくとも3回以上の検便が必要と考えています。
2.4 治療
消化管内異物と診断あるいは仮診断された場合には、内科的または外科的に管理していくことになります。どちらのオプションにも異なるリスクが伴います。水分補給や潤滑剤(下剤)などの投薬による内科学的管理により、一部の異物の通過が可能になる場合があります。内科学的に良好な反応が得られない場合には、完全閉塞、重度の腸拡張、腸穿孔のリスクがあります。しかし、外科的に閉塞を解除する、異物を除去する手術は、体の小さな患者にとっては困難な場合があります。
3. 予防医療の重要性
3.1 適切な飼育環境
カメの健康は適切な飼育環境から始まります。温度、湿度、紫外線照射など、種によって異なる要件を把握し、提供することが不可欠です。とくに温度については、ケージ内の空気を暖めることが(床を温めるのではなく)大切だと感じています。
3.2 適切な床材とシェルター
リクガメは掘ることが好きな種類です。床材が穴掘りできる素材だと、本能の習性を満たし、自然な行動を楽しむことができます。しかし、大自然とは異なり、床材に自然の浄化作用が働きません。限られたスペースの中で、いつも同じ床材を使っていれば、衛生状態が保たれなくなるのは、避けられません。定期的な交換は必須ですが、なかなか毎日の交換は困難ですよね。
そして安全性の問題も考えなければなりません。リクガメの健康に悪影響を及ぼすことがないように選ばれるべきです。消化管閉塞については前記の通りです。他には、感染性病原体の温床になったり、ホコリがたち、鼻炎や結膜炎の原因になったりすることがあるので、床材に適していると謳って市販されているもので「これがベスト」と、お勧めできるものがありません。
ココヤシファイバー(エコアースなど)、サイプレスマルチ、などなどが推奨されていますが、獣医師としては、お勧めできません。床材が消化管運動障害や閉塞を起こす可能性があるからです。
明らかに避けるべき床材としてリストアップされているのは、パイン(松)チップなどの針葉樹のチップです。
新聞紙やペーパータオルなどのペーパーベースの製品は「掘る」ことができないので、床材としては不向きといわれていますが、これはとても無難な素材だと考えています。
穴が掘れない代わりに、シェルターが必須だと個人的には考えています。無理なく出入りができ、身を隠せるプライベート空間を作ってあげましょう。
上記の飼育ケージでは、左端にシェルターがありますが、カメさんにとっては、小さいです。さらに、こちらに向いているので落ち着かないかもしれません。
加えて言うと、水入れは本人が浸かれるくらいの大きさが欲しいです。
リクガメの床材は、飼育環境全体の健康に影響を与える重要な要素です。適切な床材の選択と定期的なメンテナンスによって、リクガメが快適で健康的な生活を送れるようにしてあげましょう。
3.3 バランスのとれた食餌
栄養バランスのとれた食餌はカメの健康維持に貢献するだけではなく、免疫力のサポートにも必要だと考えています。適切な餌やサプリメントの使用については、別枠でお話しさせていただく機会を設けたいと考えています。
3.4 検疫
とくに複数の動物を飼育しているかたは、新しく導入したら(飼い始めたら)、その個体を単独で少なくとも 数カ月間隔離する必要があると考えています。検疫の設定は比較的シンプルで、動物の健康状態を簡単に監視できる必要があります。原則として、隔離の最初の数週間は、糞便が容易に観察でき、すぐに検便に利用できるように、ペーパータオルまたは新聞紙を床材として敷いておきましょう。簡易なものであれば、毎日掃除がしやすいので、万が一、ウイルス、寄生虫などに感染していても、濃厚感染となるリスクを軽減できるメリットもあります。検疫期間に異常な症状が出ることがないか、毎日しっかりチェックを怠らないようにお願いします。
3.5 定期的な健康診断
カメの健康を維持するためには、定期的な健康診断が欠かせません。早期発見・治療が可能な状態であれば、診療の難しさを軽減できます。
4. 総括
どんな動物でもいえることですが、カメの健康管理においても、獣医師と飼い主さまの協力が不可欠です。難しい診断状況においても、予防医療や適切な飼育環境の提供がカメの幸福と健康に繋がります。飼い主さまの理解と獣医師の専門知識を結集し、共に最良のケアを提供していきましょう。
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