🐢カメの肥満が増えています|アメリカで問題視されるカメの肥満と飼育管理の落とし穴【動物病院が解説】

屋内飼育中のリクガメ

こんにちは。
アロハオハナ動物病院かもがわ公園小動物クリニックの院長です。

日本でも近年、「うちのカメ、ちょっと太ってきた気がする」という話が増えているようです。
見た目は元気そうでも、実は肥満によって健康を損ねているケースが少なくありません。

この記事では、アメリカで肥満が問題視されるカメたちの実情と、
その背景にある「飼育管理の落とし穴」、そして日本の飼育環境でできる対策について、お話を進めていきたいと思います。


カメの肥満が増えているという現実

一見すると健康そのものに見えるカメ。
しかし、首や足の付け根に厚い脂肪がついていたり、手足を甲羅に引っ込めにくくなっていたら要注意です。

アメリカのエキゾチックアニマル病院では、診察に来るカメの30〜40%が肥満傾向にあるという報告もあります。
その原因のほとんどは、「栄養過多」と「運動不足」です。

日本でも同じ傾向が進んでいると考えられ、特に室内飼育のリクガメやミドリガメでは、
食餌の与えすぎと運動不足とが重なり、代謝が落ちて太りやすくなる例が多く見られます。


肥満がカメの体に与える深刻な影響

カメの肥満は、単なる「見た目の問題」ではありません。
内臓脂肪の蓄積が、次のような障害を引き起こします。

  • 呼吸・循環器への負担:脂肪が肺や心臓を圧迫し、動きが鈍くなる
  • 脂肪肝:過剰なエネルギー摂取で肝臓に脂肪が沈着
  • 卵詰まり:骨盤周囲の脂肪で卵の排出が妨げられる
  • 甲羅変形(ピラミッド化):高タンパク・過剰栄養による代謝異常

特に、雌のリクガメでは肥満により卵を産めなくなり、開腹手術が必要になるケースもあります。
「よく食べるから健康」ではなく、「太って動きが鈍い」は明確なサインです。


アメリカの獣医療現場から見た「肥満カメ」の実態


飼育下のカメの肥満は「人間の過剰な愛情が引き起こす病気」と表現してもいいと思います。

自然界のカメは、限られた季節しか食べられず、活動によって常にエネルギーを消費しています。

ところが飼育下では、

  • 年中安定した温度
  • 運動量の少ない狭いケージ
  • 高栄養ペレット・果物の過剰摂取
    といった要因が重なり、「食べすぎても太るしかない」環境になります。

「食餌内容の改善なしに肥満を治すことはできない」といえ、運動不足よりもまず食餌が鍵なのです。


飼育環境のどこに問題があるのか

カメの肥満には、飼い主さまの「かわいそうだからもう少し…」という心理が大きく関わります。
また、温度・紫外線・湿度の管理不足も新陳代謝に影響を与えます。

特に次の点は見直しが必要です。

  • 食餌の量が多すぎる(自然界では1日に満腹まで食べない)
  • 室内で光量不足(自然の太陽光線は、人工光線では補えない何かがある)
  • 陸地が狭い(運動不足でエネルギーを使えない)

肥満は「食べすぎ+動かない+代謝が落ちる」のトリプル要因で進行します。


種類別に見る肥満の傾向と対策

カメの種類によって肥満のパターンは異なります。

ミドリガメ・クサガメ
→ 人工餌は高カロリーで、脂肪肝になりやすい。
→ 対策:成体では給餌は週3回程度、十分な水深と陸場を設け、運動させる。

ギリシャリクガメ・ヘルマンリクガメ
→ 野菜中心でも炭水化物過多になる。キャベツやトマトばかりはNG。
→ 対策:野草(オオバコ、タンポポなど)、牧草を主体に。

ホシガメ・アカアシガメ
→ 果物好きだが、糖分で肥満が進行。
→ 対策:果物は週1回のご褒美程度に。

ハコガメ
→ 昆虫を好むが、脂肪分が高く、慢性肥満に。
→ 対策:昆虫を減らし、植物性餌の比率を上げる。


肥満を見抜くチェックポイント

以下のような兆候があれば、肥満を疑いましょう。

  • 首や手足が甲羅の外にはみ出している
  • 手足を引っ込めにくい
  • 体重が異常に増えている
  • レントゲンで肺が背中側に押し上げられている

正しい食事管理:量より「質」と「間隔」

肥満改善で最も重要なのは「何を、どれだけ、どのくらいの間隔で」与えるかです。

  • 食餌は「体重の2〜3%/日」が目安
  • 若齢期は毎日、成体は2〜3日に1回
  • 栄養バランス(Ca:P=2:1)を守る
  • 野草・葉物中心、果物は少なめ
  • ペレットは補助的に使用

アメリカの動物病院では、「野草ダイエット」を推奨しており、日本でも牧草の種などをネット検索してみることをお勧めします。


運動不足が肥満を加速させる理由

水棲カメでは「泳ぐこと」が代謝を上げる最大の運動です。しかし水槽が狭いと、ほとんど動かずに1日を過ごします。

  • 水槽に水流を作る
  • 食餌を水中の異なる位置に落とす
  • 陸地に障害物を配置する

リクガメでは「食餌を遠くに置く」「ケージ内に高低差を作る」といった探索行動を促すだけでも、肥満防止になります。


ダイエットの基本は「環境改善」

「食餌を減らす」ことだけから始めると、脂肪肝を悪化させるリスクがあります。同時に、代謝を上げる環境を整えることが大切です。

  • 温度を適正に(低温すぎると代謝が落ちる)
  • 紫外線灯を更新(6〜12か月で照射量が低下)
  • 運動スペースを確保し、温暖な季節は、屋外で散歩させる(※十分に監視が必要)
  • 食餌は種類を増やし、バランスを取りながら、ビタミン・ミネラルサプリメントなども活用する

「肥満カメのダイエットは3〜6か月以上かけてゆっくり行なうべき」です。


当院で行なうカメの肥満診療とカウンセリング

当院では、次のステップでカメの健康チェックを行なっています。

  1. 飼育環境と食餌内容のヒアリング
  2. リクガメでは、体重・甲長からの評価
  3. レントゲン・超音波で脂肪量と臓器状態を確認
  4. 個体別のダイエットプラン作成
  5. 食事記録・運動記録をつける「カメ健康ノート」の提案

飼い主さまにも「できるだけ楽しく続けられる」方法を一緒に探します。


飼い主さまにお伝えしたいこと

肥満は「愛情の過剰投与」であり、決して良いことではありません。
餌を減らすのではなく、自然に近づけることが愛情です。

自然界のカメは、動き回り、太陽を浴び、限られた時期にだけ食べます。
その環境を少しでも再現してあげることが、最良の医療です。


アメリカの知見を日本の飼育環境に活かす

「Nutritional Ecology(栄養生態学)」の考え方が、エキゾチックアニマルには非常に重要だと考えています。生物が栄養素をどのように摂取し、体内でどのように利用して生存・成長・生殖を行なっているかを、生態系や環境との関連で研究する学問です。具体的には、生物の食物摂取行動、栄養素の利用、環境中の栄養素の利用可能性などが、行動、生理、集団、種レベルでどのように影響を受けるかを分析します。 この分野の研究が進むと、飼育下のエキゾチックアニマルが、食事によって起きたと思われる病気を予防するのに、大きく貢献してくれるでしょう。

日本の住宅環境では制限がありますが、

  • 自然光での日光浴
  • 季節ごとの給餌量調整
  • 運動量を増やす配置
    を取り入れることで、肥満を大きく防ぐことができると思います。

飼い主さまが明日からできる実践ステップ

  1. 給餌量を7割に減らす勇気を持つ
  2. 週1回の体重測定を習慣にする
  3. 運動ができるレイアウト、運動場を用意する
  4. 日光浴スペースを確保する
  5. 飼育日誌で変化を「見える化」する

カメの健康を守る最後のメッセージ

カメの肥満は、放置すれば寿命を短くします。
しかし正しい知識と工夫で、健康を取り戻すことができます。

動きが軽くなり、目に輝きが戻る瞬間を、ぜひ体験してください。
それは、飼い主さまとカメさんの「信頼の証」です。

健康診断を受けていない飼い主さま、既にもう肥満が気になる方は、ぜひ一度ご相談ください。


よくあるQ&A

Q1:カメが太っているかどうか、どう判断すればいいですか?
A1:首や足まわりに肉の段差がある、引っ込めにくい、動きが鈍いなどがサインです。定期的な体重測定と獣医師によるチェックが安心です。

Q2:食餌を減らせばすぐ痩せますか?
A2:急な減量は危険です。少しずつ給餌量を調整し、温度・光・運動を整えながら3〜6か月以上かけて行ないましょう。

Q3:ペレットは悪いのですか?
A3:悪くはありませんが、主食には向きません。野草や葉野菜を主に、ペレットは補助的なおやつ程度と考えましょう。

Q4:屋内飼育でも運動させる方法はありますか?
A4:水棲種なら水深、水流をつくる、リクガメなら床に起伏を作るなど、運動を促す工夫でカロリーを消費できるようにしましょう。

Q5:肥満を放置するとどうなりますか?
A5:脂肪肝、卵詰まり、甲羅変形、寿命短縮などを招きます。早めに環境と食事を見直すことが大切です。


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 アロハオハナ動物病院 かもがわ公園小動物クリニック

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